主人公はチート能力をもった勇者ではなく獣医さん
今回読んでみた異世界マンガは「獣医さんのお仕事 in異世界」という作品となります。
タイトルから分かるように主人公が獣医さんという設定なんですが、主人公が定番の勇者や大魔法使の冒険者ではなく獣医ということでどういったお話なのかを一部紹介しながら、その感想などを書いてみたいと思います。
前回のシリーズ第一弾記事(マンガ「食い詰め傭兵の幻想奇譚」を読んだ感想:気軽に読める異世界マンガ(1))では”気軽に読める面白いマンガ”というシリーズにしようとしたんですが、よく考えるとこれだとつまらない・イマイチなマンガが記事にできないので、”気軽に読める異世界マンガ”にシリーズ名を変えることにしました。
個人的にはマンガなどに対して賞賛記事ばかりでは、これから読もうかどうか悩んでいる人の参考にはならないので、イマイチなマンガはイマイチとお伝えするための変更となります。
(画像引用:アルファポリス電網浮遊都市「獣医さんのお仕事 in異世界」より)
Contents
「獣医さんのお仕事 in異世界」とは
「獣医さんのお仕事 in異世界」とは国立大学で獣医学を学びながらライトノベル小説家としても活躍する蒼空チョコ(あおぞらちょこ)さんによる小説作品が原作となる作品です。
2012年6月から小説投稿サイト「小説家になろう」で公開されていた作品で、原作はすでに完結済みの作品となります。
小説ならびにマンガの製品版はアルファポリスから発行されていますが、内容については原作版と内容が変わっているようです。
マンガ版「獣医さんのお仕事 in異世界」は作画をhu-koさんが行い、アルファポリスで定期的に公開されており、序盤と最新話を含む数話は無料で読むことができます。
あらすじ
主人公の風見心悟(かざみしんご)は26歳で、家畜保健衛生所で働くいわゆる公務員獣医です。
家畜などにとって致命的な集団感染などがあれば、その被害の拡大を防ぐために一斉処分などを指示しなければいけない立場にいるなど、動物好きな彼にとっては、その職務内容と現実に心を痛めていました。
”もっとたくさん救えたらいいのに”
そう心の中で願う彼でしたが、仕事先の農家に向かおうとしたトンネルの中で、彼の願いに応えるように異世界に吸い込まれていきます。
気がつくと彼の前には、ユーリス・ログ・マグワイアという青年をはじめとする一団が立っており、彼を”猊下”とよび好意的に迎い入れます。
彼らから様々な説明をうける風見でしたが、どうやらその世界では伝説的な存在として知られる”マレビト”を得るために、彼はアウストラ帝国第一皇子にして宰相であるユーリスによって召喚されたということでした。
しかもこれまで召喚された”勇者”などの特別な力をもった”マレビト”とは違い、最初からモンスターを治す医者を目的として召喚されたことを知ります。
当然、その申し出に戸惑う彼でしたが
”この世界のたくさんの命を救ってもらいたい”
という申し出は彼が本来望むべきものであり、その申し出を引き受けることにします。
といった感じのお話です。(今回はマンガ版を比較的読み直しながら抜き出してみましたw)
非王道系の異世界マンガとして設定が面白い
さて、ここからが感想となります。
異世界ものにも様々なジャンルが主人公が異世界にして転生し、反則級(チート)の能力で無双するというのが王道とも呼べる展開ではありますが、この作品の主人公風見は普通の獣医さんで、そんな彼が剣と魔法の世界を生き抜くというお話になります。
基本的なストーリーの流れとしては、一般的な獣人など亜人が登場してくるRPGのような世界の中で獣医として学んだ知識を発揮して問題解決していくという展開です。
そのためドラゴンなどのモンスターなども登場してくるのですが、この作品のいいところは単なるほのぼの系で終わってない点がストーリーとしてある程度広がりと深みを与えている印象でしょうか。
作者の蒼空チョコさんはどうやら現役の獣医さんらしいのですが、専門的な知識を持った人が原作なので主人公の活躍ぶりも説得力があり、分かりやすい特別な力はないけど活躍できる部分に説得力があります。
よって単なる異世界ものというよりも獣医マンガの舞台が異世界という表現もでき、このあたりのハイブリッド感が読んでいて自然な感じはしますし、読みごたえはあります。
また、単なる獣医としての知識をもっているだけでは何となくただの獣医マンガとして平凡な話として終わってしまうところですが、”モンスターに異常に好かれる”、”律法(魔法)の追尾を受けない”というちょっとした設定が付け加えられており、異世界で主人公が生き残れていることへの説得力がもたされています。
絵は合格点もキャラクター設定に少しバランスの悪さを感じる
逆に少し気になった点は、登場人物たちのキャラクター設定でしょうか。
人物やモンスターなど、キャラクタービジュアルにかんしては好き嫌いはあるかもしれませんが、特別上手いは言えないものの違和感はなく、受け入れやすい絵柄になっています。
ただ、主人公以外の人物、キャラクター設定については少し乱暴にかなという印象を受けます。
まぁ、特別酷いという感じではないのですが、主人公の心理描写・行動原理はしっかりしているだけに、まわりのキャラクターの行動パターンのがどうしても浅く感じてしまいますし統一感に欠けのが気になります。
例えば呼び出した第一皇子のユーリスは愛想のいい人物でありながら、権力者としての冷徹さを感じさせるような描写があったり、現在マンガ版の最新話あたりで出てくる盗賊団の有名な団長(のちのライバルにして最大の悪友になるという触れ込み)などは、一見冷酷そうに見えて芯はしっかりした熱い人物というような描写がされています。
対して主人公の護衛などを務めるリズや神官のクロエなどの女性陣が少しキャラクター的に浅いというか、上に挙げた男性二人が田中芳樹先生が描くようなSFファンタジー小説的なキャラクター設定なのに対して、女性陣がいかにもライトノベルチックな単純な思考・行動を繰り返すように感じられるのでバランスがどうしても悪く感じてしまいますね。
そのためどうしても主人公周りのキャラクター達が少し弱いかなという感じがします。
全体を通して魅力的な男性キャラクターが多いのに対して女性キャラクターの描写が軽い感じは受けるので、非戦闘・日常パートなどが少し退屈に感じてしまう部分はありますね。
ゴール地点が見えない
原作者の蒼空チョコさんはすでに別の獣医が活躍する作品を小説になろうで連載しているので、おそらく小説版はすでに完結しているのだと思います。
それに対してマンガ版の最新話ではあるモンスターを仲間にするところまで来ているのですが、今のところストーリーは獣医として色々問題解決していくという感じから冒険者として仲間を増やしていくというような雰囲気に変わりつつあります。
別に僕はどちらのパターンでも構わないんですが、読んでいてつまらないとは感じないものの何となく感じるのはどうも惰性で進んでいるように感じる点です。
主人公が何を目指しているのかというのかが、少し曖昧なんです。
序盤、元の世界には帰れるものの、少し時間がかかるという言葉に納得しつつ、様々な命を救うために行動する主人公の行動には納得できたんですが、今のところ元の世界に帰るために何かをしているわけでもなく何となく何かが起こって問題解決をしている状態を繰り返しています。
ただ、この一つのエピソードが終わるのに対して周りの状況に大きな変化が起こっているわけではないので、停滞感を感じてしまいますし展開の遅さのようなものを感じます。
それだったら最初からほのぼの系でよかったと思うんですよね。
人物によっては少し風呂敷を広げすぎている部分もありますし、当初のたくさんの命を救いたいという主題も少しづつ薄味になっているようにも感じます。
全体的には悪くはない作品だと思うんですが、もうちょっと登場キャラクターを増やして対立軸などを作り出したほうが面白くなったんじゃないかなと思いました。
総合評価
個人的な評価としては平凡以上の作品とは感じつつも、面白いと感じる部分とエピソードによっては少し退屈で蛇足な部分を感じる部分もあるので
★★★★★★☆☆☆☆
の評価となります。
読んで面白いんですが、期待しすぎても、ハードルを上げ過ぎてもダメな作品という感じでしょうか。